失態

 最初に就職した会社で、入社3ヶ月後に行った社員旅行。
バスで仙台まで1泊2日だった。
 翌朝、ホテルの中庭でIさんが女性社員を3名連れて寛いでいた。
全員が同じ職場だったので傍目にはコミュニケーションの一環にしか見えなかったが、
社員旅行から帰って来て数日後、Iさんは製造棟1階から2階へ異動した。
Iさんに連れ添っていた女性3名のうち、
一際胸元が目立つ女性と不倫関係だったのが会社にバレたらしい。
既婚男性が社員旅行とは言え、白昼堂々、独身女性とベタベタしていたら、
何らかの疑念を持たれて当然です。脇が甘い。
社員旅行で開放的な気分になってしまったのでしょうけど。
Iさんは、如何にもテストステロンが過剰に分泌されてそうな顔
(所謂、眉毛が濃くて髪が薄い)だった。まさに絶倫デカ●ン野郎。
不倫関係だった女性も、ミサイル二基装備と言わんばかりのデカ●イ
(顔は、どちらかと言えば美人ではなかった)
結局、関係は途切れたようだったが、
その後、構内通路でどちらかと擦れ違う度に、
脳内で「このドスケベが」と呟いていた気がする。
当時社会人1年生の私には刺激が強過ぎた。
実際、公然の秘密レベルの「男と女の不倫関係」なんてのは、
社内恋愛と同じく、どこにでも有る話で別段驚くべき事ではない、
ただ共に既婚者同士の不倫というのは、滅多に無い。
2つの家庭を崩壊させてしまうと、後々面倒だからに違いない。
過去に交際して別れた独身の男女についても、
「あの2人、昔付き合っていたらしいよ。意外だね」
なんて吹聴して来る人が結構居た。
会社とは言え、建物は閉ざされた空間なので、
労働者は暇さえ有れば噂話をしたがるのだ。
過去に交際していた女性社員が他の男性社員と結婚する運びとなり、
同僚で寄せ書きをしたが、元彼が昔の彼女に対して流石に一筆とはなかった。
当の本人も「俺に書かせんのか?勘弁してよ」と笑い飛ばしていた。
その女性は俺の職場で事務的な仕事をしていたのだが、
結婚の前年暮れに婚約相手と2人でスキー旅行に行った際、
夜「あなたの子供が欲しいの」と告白したとか。
そんな話を聴いた後、俺はどんな表情で彼女の顔を見たらいいのか、
大変困惑した思いがある。
まァ、俺はすぐ顔に出るタイプだから、
「このドスケベ女め」と無言で罵っていたに違いない。
女性の方からグイグイ来られたら、大抵の男は一旦引く。
それでも、誘惑に負けてしまうのだ。
婚約相手は彼女より8歳上で、元彼は2歳下。
多分、元彼とのは遊びだったのでしょう。
正直この頃の自分は彼女が欲しくて悶々としていた時期なので、
(二十歳前後)こんな話を聞く度に、
苛立ちや憎しみに支配され、黒い感情で憎悪の鎧を纏っていたようだった。


 あと一押しで懲戒解雇。
だが焦る事はない。もうリーチなんだから。
梅雨明けまで首を洗って待ってろ。
憎悪の鎧を纏って貴様を奈落の底に突き落としてやる。
…己の悪行、地獄で一生悔いるがいい。