忘却

 嫌な思い出、関係が途切れて疎遠になった人の顔・名前。
こういった内容は、知らない内に記憶から遠ざかってゆく。
二度と使う宛のないモノを「何かの時に使うかもしれないから」と部屋の片隅に放置しがちな私ですら、
中学・高校時代の同級生全員の名前を覚えてはいない。

 今日、献血に行った際に入口付近に座っている受付担当の女性がいつもと違っていた。
しかし何故か見覚えがある顔だった。
最初は戸惑ったが、記憶を遡ってみたところ、過去に勤務していて、
ここ3年ほど見かけなかった人だったのだ。
随分と月日が経ったので、てっきり辞めたのかと思っていた。

 今日は髪型が以前とは違っていたので、まったく気づかなかった。
名札を見て、苗字から何とか顔を思い出した。
野口五郎夫人(三井ゆり)似の女性で、産休明けで4月から週2日だけ勤務しているらしい。
まァ産休明けってのは憶測の範疇を超えないが、
7ヶ月も経っているのに今日まで顔を合わせる機会がなかったとは。

 悪い気はしなかったが、だからと言ってテンションが上がる訳でもない。
相変わらず笑顔は素敵でしたけど…。
「私の事を忘れないでいてくれていてありがとう」とでも言ってみたかったが、
それが正解なのか、間違いなのか、判断しかねたので、辞めときました。
正確には、聴きたい事が言葉に出せなかった。緊張しちまって。
美人の前ではリラックス出来んとです。