ちょっと恐い話

あれは、アタシがまだ小学校の低学年だった頃。
母親の勤めていた会社の慰安旅行で伊東温泉に行った時の話なんですが…。
伊東なんてテレビでしか(しかも ハトヤ)見聞きした事がなかったので、
ワクワクしながら新幹線に乗り込んだのでした。
ところが着いたホテルがハトヤでなくてガッカリ。
夕食で、「オムライス」なんてシャレた洋食が出て来たのですが、
ケチャップ味に馴染みがなかったアタシは、
一口食べただけで残してしまいました。
大浴場の温泉は極楽気分でしたが、海に入って遊んだ記憶はありません。
それどころか、後に出会う事件によって、
アタシは海に対して恐怖を憶える事になったのです。

帰りにタクシーを待ちながら、波打ち際を眺めていたら、
その波に揉まれている人形が目に入りました。
「可愛そうに~誰かに捨てられたのかな~」なんて思いながら見ていると、
寄せて返す波に乗って、接近して来る姿が、やけに精巧に出来ていて、
そして、よく見ると、左手と右足が無いんです。
妙に変だな~。だってオカシイじゃない。
人形だったら簡単に手足が取れちゃったりしないでしょ?
でも、あんな荒波に揉まれたら捥げてしまう事もあるのかなーなんて思っちゃったりした。
更に目を凝らしたら、頬にガーゼらしきものが。
そしたら右手にも包帯をしていたんだ。
人形に包帯なんて、変わった遊び方をする子も居るんだな~と思いつつ、
もう一度、今度は砂浜に駆け寄って凝視して見た。
そん時アタシ気付いちゃったんです。
これ人形じゃない。赤ちゃんだって。
そして、近くに居た人が警察に通報し、アタシがタクシーに乗り込む頃には、
パトカーが到着し、ボートを逆さまにして遺体を隠していました。
遺体の耳には補聴器が付いており、それが決め手となって身元が判明したのだとか。
幼児遺棄事件だったそうです。
未だにアノ時の事は忘れられません。
だって、初めて「死体」と言うモノを目の当たりにしたのですから。
水辺ってのは、霊を呼ぶらしいですね。
あの海辺は海水浴場ではなかったのですが、
果たして、今はどうでしょうか…。